「独身女性は子供を望んではいけないの?」揺れ動く思いがつまった一冊

2024年02月27日 | 精子提供 AID 精子バンク |  コメント (0)

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「夏物語」川上未映子著
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米国で15年以上、精子提供のコーディネートをしているミラクルベビーアシスタント斉藤です。今日は最近読んだ本についてブログを書こうと思います。

 

日本滞在中に、久しぶりに定価で小説を購入してみた。円安であることを考えたら、少々高額のページ数が多い小説でもドル換算すると安いぞ!となり、川上未映子先生の『夏物語』を選んだ。選んだ理由は、この小説の裏表紙にあったあらすじの中に「精子提供」という、一般的にはあまり馴染みのない言葉がわざわざ書かれてあったから。仕事でよく使う言葉なので、私にとっては日常的な言葉だが、果たしてこれをどんな風に川上先生は物語に投入しているのかと、非常に興味がわいた。私は購入する前に小説の出だしの数ページを読んでみるのだが、夏物語も同じように読んでみることにした。初めから気になるワードが出てくるのか?と思ったが、意外な書き出しで私の興味はますます高まった。淡々とした書き出しにもかかわらず、どんどん引き込まれた作品。精子提供を少しでも考えたことがある人にも、精子提供という言葉になじみがない人にも是非読んでいただきたい作品。あらすじはざっとこんな感じである。

【主人公の夏目夏子は、学生時代に同じ大学に通うある一人の男子学生と付き合うが、その時感じた性行為に対する不快さがどうしても受け付けられず、その彼と別れてからは性行為がない。夏子の姉の子供である姪、元同僚達の子供などの存在のせいなのか、ビールをしこたま飲んだある夜「私はこのまま一人で死ぬのか?自分の子供に会うこともなく一人で終わるのか?」という漠然とした思いがわきノートにメモをとる。いつしかその思いが頭から離れなくなり「結婚せずに、しかもパートナーなしで子供を授かることができる方法」を模索し始める。精子提供という方法で妊娠が可能であることを知り、TV番組での特集や書籍で情報を集め、実際にSNSでボランティア精子ドナーと称して精子提供をしている人々に連絡を取ってみたりもする。また、精子提供で生まれた当事者たちが集う団体を知り、その団体主催の講演会へ足を運び、実際に精子提供で生まれた人たちはどんなことを思っているのかを聞いてみたりして、本当にこの方法を選んでよいのかと思い悩む。

夏子は幼いころ非常に貧乏で、小説家となった今でもわずかな原稿料でぎりぎりの生活をしている。そんな生活の中から、将来の我が子のための貯金をし、真剣に一人で産み育てることを考えるが、唯一の肉親である姉にも、子なし独身女性という似たような境遇の編集者にも、夏子の考えている「独身女性が精子提供で子供を授かる」ということを理解してもらえず、一人殻の中に閉じこもってしまったりもするが、結局、ボランティア精子提供ではなく、夏子が好意を寄せていた人の精子で子供を授かり、出産し、婚姻することなく、一人で育てることとなる。】

文庫本で、600ページ超の小説。主人公夏子の心情や揺れる感情がとてもよく描かれている。昨日今日という短い時間で「子供が欲しい」と思い立ったわけではなく、ひそかに思い始め、誰に気付かれることもないよう注意しながら情報を収集し、そのたびに様々な考えが巡る。「精子提供で子供を授かるって考え方はおかしいのだろうか?」と何度夏子は逡巡したことだろう。あーその考えにまた戻っちゃったか―。でもそうなるのはわかるなー。と、こちらも残念に思ったり共感したり。ミラクルベビーにたどり着いて実際に精子提供で治療をしようと決断した方々も、皆さんこういう思いを経験しているんだろうなと、随所で治療に来てくださった方々を思ったり。夏子の心の葛藤だけでなく、周りの反応や、夏子にかかわる人々の描写がとても上手く、まるで私もその人たちに会ったことがあるようにイメージ出来て、読書中の頭の中はまるでテレビドラマを観ているよう。長編であるにもかかわらず、そんなわけであっという間に読了であった。

特に「ボランティアの精子ドナー」のシーンは強烈以外なにものでもなかった。ここは、川上先生がとても丁寧に下調べをされたのだろうと実感。「ボランティア精子ドナーの恩田」の描写と、夏子が感じた印象は、おそらく多くの人が「生理的に受け付けない」と感じてしまうタイプである。決して良い印象とは言えないような風貌にもかかわらず、恩田は自分の精子の話を延々と待ち合わせた喫茶店で話し続ける。自分の精子に興味を持ったきっかけ、学校の理科室の顕微鏡で実際に自分の精子をのぞいて見た時のこと、自分の精子がどれだけの質なのかを検査に出して数値化してみたらそれはもうとても上質であったこと、など。この話をしているのは喫茶店の店内である。つまり、周りには見ず知らずの人々がいて、談笑したり、もしくは一人静に読書や勉強をしていただろう。そんな場所で、興奮気味に自分の精子がいかに優秀であるか、はたまたどんな提供方法があるかなど・・・夏子の気持ちなど考えずにしゃべり続ける。読んでいるこちらも大いにドン引きである。でも、このシーンの間中、私の頭の中では「いくらどんなに素晴らしい精子であると演説したところで、そのデータは今この瞬間に採精する精子のデータではないのだよ。よって、今この場にもし恩田が『僕の上質な精子です』とフレッシュ精子を差し出してきても、それは目の前に提示してある検査結果の数値と同じではないぞ!そこわかってる?恩田!」と何度割り込んで説明したいと思ったことか。そう、精子の質のデータなど過去のものを提示しても何の意味もないのである。

それに、ミラクルベビーが利用しているアメリカの精子バンクでは、このようなフレッシュ精子は危険が伴うために絶対に使用しない。感染症の潜伏期間があるために最低6か月は凍結し、その後検査にパスしてからでないと使用できないというルールが、アメリカの政府からのお達しにより決まっているからだ。恩田からの精子は『何かのウイルスに感染しているかもしれない』ということを、恩田や提供を受ける女性側も知っているのか。母子感染すると、生まれてくる子供がどうなるのかを知っているのか・・・

自称ボランティア精子ドナーが存在することは、SNSなどでも見かけたことがあり知っていたが、実際にこうやって描写されるだけで、そこに漂う不気味さと不快さで、目の前に居る恩田がもうまともに見れない自分が想像できる。こんな事が日本のどこかで盛んにおこなわれているのかと思うと、日本に未来は無いのではないか?と危惧してしまう。ボランティア精子ドナーが性感染症の結果を見せて、どれだけ熱心に安全な精子だと説明しても、それがフレッシュ精子である限り、全く安全性は保障できない。そういったことに対して全く無知な人同士のやり取りが行われていること自体問題だが、ボランティア精子ドナーを野放しにしている日本がそもそもおかしいし絶望的である。『手軽だし妊娠できるなら・・・』と一瞬でも考える人がいるならば、立ち止まって欲しい。妊娠にたどり着くことだけではなく、生まれてくるかもしれないその子の未来のことまで考えて欲しい。子どもの未来を考えてもなお、ボランティア精子ドナーからの精子提供を利用する人はいるのだろうか・・・

精子提供に関することが軸となっているこの小説だが、読み終わって思うことは「命とは」というのがこの小説にはあふれているなと感じた。精子提供とはそもそも、命の始まりの部分である。それをボランティア精子ドナーで、それも感染症などのリスクを考えると綱渡り状態で手軽に済ませるのはおかしい。とてもとても大事な部分なのだから、早急に法の整備をし、安全に子供が授かれる社会かつ、独身女性で子供が欲しいと思っている人たちも授かりやすい社会になってくれたらいいのになと感じた。

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米国で治療を受けるという選択肢


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