私の妹は子どもが二人いる。いつ家に電話しても途中で子供と何か話をしたり、話が中断されてしまうこともよくある。今日もそんなんだったら「大事な話」を切り出さないほうがいいと思った。
電話の向こうは聞き耳をたてているかように静かだった。
「ドクターにあなたが産んでくれるということを伝えたら、良かったねといってくれたよ。姉妹でも大丈夫だって。お母さんが娘のかわりに産むケースもあるらしいから。」
[え~!お母さんが?そんなこともできるんだあ・・・」
「年が38歳でも大丈夫かって聞いたけど、子供二人産んでいるんだったら全然いけるって感じの言い方だったよ。もちろん色々検査はあるみたいだけどね。」
「なんか私妊娠できそうなんだよね、予感みたいなものだけどね・・・」
「なんで?」
「私は妊娠しやすい身体みたいよ」
「そんなの今度はわからないよ、私達の受精卵だもん。私のほうは体外受精をする準備をするんだって。薬を打つらしいよ。」
「私は産むだけ?」
「違うよ。自然には妊娠した体にならないので、薬でそういう体にするんだって。子宮のライニングとかってドクターは言ってたから、内膜の状態を調整するんじゃないの?」
「じゃ、私も薬を打つんだ」
私はこのときに、以前主人の友達の奥さんが代理母をやった時の話をした。
「ほら、この前Tさんの奥さんが代理母をやったときの話をしたじゃない。そのときに彼女も注射をずっと打っていたんだけど、無理に妊娠する体にするから、結構辛いって言ってた。」
「副作用とかあるのかな」
やはり心配だった。妹を苦しませるのだったらどうしよう、と思った。
「色々ドクターに聞かなきゃね。あと、体外受精って双子とか三つ子とか生まれやすいんだって。どうする、三つ子だったら!」
「ちょっと待ってよ・・・」
「その体で三つ子は無理だよね」
妹は小柄である。
「私も育てられないわ、でも双子は?」
「双子までだなー、でもちょっと考えちゃうなー。仕事行ってられないよね。ね、おねえちゃん、人の体だと思って双子だの三つ子だの好き勝手言ってなあい?」
やれやれ、ずいぶんと先のほうまで話が飛躍してしまった。
体外受精も成功するかわからないのに。私の40歳の卵子を使っての成功率は低いのはわかっている。
「私が産むってことは、私の栄養が行くってことか・・」
また不安になった。妹の食生活はだいたいわかっているが、結構偏っている。好き嫌いが多いのではないが、野菜を食べないときが続くなどあまり気をつかわないのだ。ものすごい食べるとき、極端に小食のときなどあり、母も心配していたっけ。
あまり今の段階ではぐたぐた言いたくなかった。
「ねえ、ジェフはなんて言うかな?」妹の主人である。
「今日話してみるよ、あの人は心優しい人だからきっと賛成してくれると思う」
「えーそうかなあ・・・主人の協力が必要ってドクターが言ってたけど、具体的にどういうことなんだろうね。」
「私がしたいと言えば、協力もしてくれるよ、きっと」
私もそう願った。絶対彼ならOKしてくれると。
「とりあえず彼がOKだったらまたおしえて。ドクターがあなたに会いたいからって。」
「うん、じゃ電話する」
そしてすぐに返事はあった。
彼には感謝している。「助けてあげなさい」とすぐに言ってくれたこと。そして「そんな素晴らしいことはない」とも言ってくれた。
有難う。涙があふれ出た。その日のことは忘れない。こんな夫婦二人だったら、子供たちにもうまく説明してくれるだろう。
が、難関が目の前にあった。私達の母である。母は妹家族と同居している。
こんな大事なことを勝手に決めてしまったのだ。妹の主人の賛成を聞いて舞い上がってしまったのもつかの間、私の心は次の障害物に対してまた閉ざされてしまった。
―続く―