卵子提供のドナーになるには、
医療検査がある。
まずは、血液検査。
注射針が苦手なわたしは、
おもわず視線を自分の腕からそらす。
「うわ~。たくさん。」
私の視線は、その一箇所に集中した。
血液の検査室からみえる通路の壁に
たくさんの「赤ちゃんの写真」が、
ぎっしりと、まるでコラージュのように貼られているのだ。
(可愛い…)
注射針の傷みも
飛び消すかのように散ってゆく。
きっと、この不妊治療院に通ってた
夫婦の方々が送ってきた写真なのだろう。
双子や三つ子の赤ちゃんの写真も
あちこちに見受けられるところが、
不妊治療の特徴のようにも思えた。
もう一つ面白いなとおもったのが、
「試験管ベビー」を描いた
大きなポスターがはってあった。
「試験管ベビー」という言葉が、
初めて私達の耳に入ってきたのは、
もうかれ30年前の話だが、
子供ながらに覚えているのは、
好奇心めずらしさからか、メディアを通して、
いろんな中傷や批判の対象になっていたということだ。
そんな「体外受精」もいまでは、
一般的に行われている「不妊治療」になった。
「卵子提供」という言葉さえしらなかった私だが、
この「卵子提供」も、いつか日本の社会にも
受け入れられる日が来るのだろうか。
そんなことが、頭をよぎっているうちに、次は尿検査。
それから、看護士がきて
「こちらの部屋へ入ってください。」と言った。
通されたのは、患者専用の個室部屋だった。
(つづく)